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3/21(土) TestToneMusic listening vol.4について text by 大庭彰恵

TestToneMusic listening vol.4  音楽&薬草bar Scivias

主宰Kikuchi Yukinori同名のレコードレーベルもある。2014年場所をbar Sciviasに移し新たにTestToneMusic listeningとして再開。以前と同様ノイズミュージック、実験音楽などを扱う。音楽的なことや芸術的なことその他なんでも自由にコミュニケーションできる場を作ることを心掛けている。 以下は、3月21日に開催したTestToneMusic listening vol.4のレビュー。

 

【出演】 Kikuchi Yukinori(Billy?) takagi hirokazu(Billy?) 石上和也(Billy?) 小野浩輝

会長桜井(DJ) おおば(インスタレーション)

 

【タイムテーブル】トーク→ライブという形態をとり、合間にDJが入る DJ(会長桜井) 1トーク(Kikuchi Yukinori) ライブ(Kikuchi Yukinori+おおば) DJ(会長桜井) 2トーク(小野浩輝) ライブ(小野浩輝) DJ(会長桜井) 3トーク(石上和也) ライブ(石上和也) DJ(会長桜井) 4トーク(Billy?) ライブ(Billy?)

機材が店内を埋め尽くし、会長桜井(以下桜井)が音楽を流している。ライブの合間、合間にDJ桜井が活躍する。桜井が作った曲も流す予定らしいが、どこで流すかは秘密という。 うれしいことに今回初めて参加する観客もいる。トーク&爆音ライブが始まろうとしている。

 

1  Kikuchi Yukinori(以下Kikuchi)のトークから始まったTestToneMusic listening vol.4。Kikuchi自身あまり客入りを期待していなかった感があり、話は近況報告から。ただ、事情をあまり知らない人々の前で話すことでもないことだと少し戸惑っているようにもみえる。近況報告を終え、話はジョンケージへと移る。 ジョンケージとダニエルシャルルの対談を収録した「小鳥たちのために」という本を片手に話が進む。興味深い話ではあるが、難しい。Kikuchiは哲学の話をしている。哲学とは1つ1つの言葉の積み重ねによって構成されていくと聞く。この短い時間でKikuchiの言わんとすることを本当に理解するには「小鳥たちのために」を熟読している必要があるだろう。しかし、その話に興味が湧いてきて、その本を読んでみたくなった。 「繰り返しは生成を生む」とKikuchiは解説する。毎年冬から春にかけて奥三河で開催する花祭りを思い出す。楽器は笛と太鼓、鈴。シンプルで単調な音と共に舞う踊り手たち。その舞もまたシンプルで同じ動きを繰り返している。そして見ている者はだんだんそれに引き込まれていく。そんな経験と相まって「繰り返しは生成を生む」という言葉が心に深く突き刺さる。 Kikuchiのライブはおおば(以下大庭)のインスタレーションとの共演。大庭とは私のことだ。 ラップトップを駆使したKikuchiの低い音の中、モニターの画像が再生、早送り、巻き戻し、再生を繰り返す。そんな繰り返しがおもしろくなってきた時、音が途切れた。ライブが終わった。もう少し続けたかった。Kikuchiは大庭のインスタレーションを気に入らなかったのかもしれない、と心が疼いた。

 

2  小野浩輝(以下小野)のトークは自身の「音楽と生活」というCDについてと機材の説明。CDは2年ほど前、小野が結婚した頃に制作したもの。限られた短い時間の中、ものすごい集中力で作り上げた力作と説明。 小野のライブはサンプラー、ドラムマシンそしてエフェクターを使う。彼のライブは以前にも見たことがある。機材はどんな押し方をして同じ音がでるはずだ。しかし小野はそれを一生懸命押す。そこには小野の人を楽しませる開けた魅力が詰まっている。今回も以前同様、一生懸命ボタンを押す小野。以前と違うところはそのライブを間近で見ることが出来ること。小野の手元が良く見える特等席。このイベントではこういう特等席だけしかない。

 

3 大阪から来た石上和也(以下石上)。Kikuchiそしてtakagi hirokazu(以下takagi)とは20年来の仲間だと言う。ただ20年間ずっと一緒に活動していたわけではない。したがって今回久しぶりの再会になる。20年の間には意見の食い違いなどもあったろうと想像する。そしてそれを乗り越えた者達だけが持ち得る明るさのようなものがこの3人の間に見える。 ずっと音楽と向き合ってきた者が明るく軽い調子で自身の音楽についてトークをする。そこにはずしりとした重さを感じる。石上の前に演奏を終えた小野を引き合いに「僕は小野君のように派手なことは出来ませんが…」という言葉が印象的。 いくつもの自作シンセサイザーを駆使した石上のライブは、これが本来のノイズなのではないか、という説得力のある音だった。シンプルな低い音だが決して簡単な音ではない、重みと厚さがある。計算しつくした音のようでもあり、計算だけでは作り出せない音のようでもあった。 店の窓が少し開いている。しかしそこから外を眺めることはできない。石上の音を聞きながら、窓の外の世界を創造する。

 

4  大トリは「Billy?」。Billy?とはKikuchi、takagi、石上そして宮崎の4人の構成。今回、宮崎はいないので、本当をいえばBilly?メンバー内3人での演奏ということになる。石上の所でも少し触れたが、Billy?は結成して今年で20年という。しかし、活動自体はあまりしていないらしく、3人が一緒に演奏するのも数年ぶりになる。 ミュージックコンクレートとノイズの中間のようなものをやると説明の後、ライブが始まった。さすが大御所達の音。ただ、面白くなってきたと思うとお互いが躊躇しているのでは?といった場面も見受けられたが、本人達はそういうのも楽しんでいるようだった。 久しぶりのライブ、そして直前までBilly?としてライブをするか迷っていたという。Billy?20周年に向けて活動を活発にしていきたいという話を聞いた。宮崎が加わるとBilly?は万華鏡のような音のパノラマが広がるという。4人揃ったBilly?を見たくなった。

端書  Kikuchiの「トークをしたくてこのイベントを開いている」という言葉が印象に残る。ノイズなどという音楽をやっている人達は心にどんなものを抱えているのだろうか?このような音楽をやっている人達は自分たちの音が一般受けしないことを覚悟している。それでもこれがいいという絶対的な孤独、そしてその孤独と同じだけ人を求める。決して迎合主義には陥りたくないと言う純粋さそしてその純粋さと同じだけ不純物を求める。勝手な想像であるが、このような矛盾がライブの意義でありこのイベントの原動力なのかもしれない。 他人の話声がどこにいても聞こえてしまいそうな空間での語らい、議論は演者と観者との境界を曖昧にし、理解を深めていくはず。レトリックに惑わされなければ。