音楽&薬草bar Scivias

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Pascal Battus 記憶の音/記録の音

Pascal Battus/Bertrand Gauguet / Eric La Casaの三人による「Chantier 1」は、あるビルの中を即興演奏、即興録音した作品、前半2曲は、ビルでの録音の半年後その録音時の記憶を残しつつスタジオでセッションをおこなったという。

自分のフィールドレコーディングの経験で、おもしろかったのは、録音することで切り取られた何気ない音を、思った以上に覚えていることだった。

自分が録音した音を聞き返すと、たとえば、踏切の遮断機がおりて、隣の女性二人が天気の話をはじめるだとか、子猫が茂みのかげで鳴いていて、そこに自転車のベルがなるだとか、ふだんだと消えていってしまうような出来事が、しっかりと記憶されていた。

この作品では、不確かな音が紛れ込む野外での録音を、雑音のない無菌室的なスタジオで再現しようとすることで、実際に録音現場でのコントロールされてない音と、演奏家の記憶なかで再構築された音との対比が見えてくる。また、演奏家の記憶の再現という行為により、フィールドレコーディング作品の特徴であると思われる、その時は偶然なった音ではあるのだが記録され反復される事で、それらの音の聴こえ方が変わっていく、それらの音の意味が変わっていくという事、すこし積極的な解釈をするなら、ある気にとめていなかったシンボルにより、今まで見えなかったその周辺のシンボルが明るみになり、自身の内なる記憶そのものを書き換えてしまうような側面を、改めて考えさせられる作品となっている。